解説
SONYのテレコ、TCM-400という製品を入手した。リサイクルショップで、デッドストックと思われる未使用品(多分)が200円で出ていたのだ。この手の商品としては末期のもので、当然の様に既に生産終了しているものである。
この機種はスピードコントローラーが付いており、また、オートリバースではない欠点を補うためか、1/2倍速で録音時間を倍増できる機能もついている。
このスピードコントローラーは、楽器の視点で見た場合、トランスポーズというか、ピッチコントローラー、あるいはピッチシフターとなり、また1/2倍速は、オクターバーという事になる。
この機種では、ドの音を基準とすると、上はファ#、下はラ♭の可変範囲が取れる。また標準速で録音して1/2倍速で再生すれば1オクターブ下げのピッチシフト、1/2倍速で録音して標準再生すれば1オクターブ上げとなる...
またテレコ特有の音揺れ、ノイズは、音楽再生装置としては当然好ましくはないのだが、楽器のオシレーターと見た場合はLFOやノイズがミックスされた音源、と見なすことができる。
大抵のシンセサイザーはLFOやノイズ発生器を持ち、音作りでわざわざ音を揺らせたり、ノイズを混ぜたりするのだが、テレコで録音すればそれが半分自動で付加されるわけである。録音時や再生時にテレコ本体を揺らすとビブラートがかけられる、正に楽器として使える…
...などと考えながらデモを録ってみたのが上のビデオである。
回転数を変えるので、あたりまえだが、ピッチを変えるとテンポも変わる。
またピッチ上げは速度が上がるので音質がよく、ピッチ下げは逆に悪く、小さくなる。
録音したのは、KORG KROMEのピアノ音で、元音はスタインウェイ系の硬質で綺麗な響きのものであるが、テレコに録ると独特の音色に変化し、この再生音を音源としてシンセ同様にディレイその他のエフェクトをかけたのだが、ピアノと言うよりは、鉄弦のギターの様に聞こえる。
PCMやMP3で高音質に録れるデジタル録音機が安価で普及した今となっては一般的には商品価値は無いのであるが、テープレコーダーというのは、どこか惹かれる。メカと電子回路を凝縮した創意工夫の結晶、という所が魅力だし、機械式、アナログ回路の不正確さ、曖昧さ、ノイズや揺れなどはデジタルにない味であり、楽器の延長として、音源として十分使えるのではないか、と思う...
ドローン音を録音しておいて通奏低音にしたり、ピッチをあれこれ弄ったり、という音源に使えるのではないか、と思う...